Novel / Vol.1 — 発売中
少年探偵のデジタル・スケッチパッド 第1巻
東京から、加須へ。
一台の「デジタル・スケッチパッド」を手に、
少年と少女が、街に眠る"見えない歴史"を辿りはじめる。
Details — 書誌情報
Preview
試し読み
物語の入り口を、二つの場面から。
序章 / 引っ越しの道
東京を出てから一時間と二十三分。
スピードメーターは加速と減速を七十二回繰り返した。僕は、数えるのをやめた。
段ボールを積んだ車の後部座席で、僕は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。雨粒が叩きつけるフロントガラスの向こう、首都高のビル群が灰色の壁のように流れていく。聞き慣れた車の走行音だけが、やけに大きく響いていた。
「新しい学校、楽しみだな」
運転席の父さんが、バックミラー越しに明るく言った。でも、僕は「……別に」と短く返すのが精一杯だった。東京の学校には、昨日まで一緒に笑い合っていた友達がいた。もう、あの教室には戻れない。シートに背中を預け、僕は小さくため息をついた。
──やがて、車は加須インターで東北自動車道を降りた。目の前をふさいでいた高い防音壁はなくなり、空が急に広くなった。
第六章 / 三県境への旅
「悠人くん、落ち着いて」
穂乃香の手が、僕の手をそっと握った。小さくて、少し汗ばんでいる、確かな温度。その温かさが、頭の奥まで届いて、僕はようやく息を吐いた。
「デジタルがダメなら、自分たちの目で見ればいいよ。おじいちゃんはいつも言ってた。『答えはいつも、足元にある』って」
自分たちの目。僕は深呼吸をして、顔を上げた。真っ暗な画面ではなく、目の前に広がる『本物の景色』を見る。Y字に整備された用水路。区画整理された田んぼ。点在する古い石碑。健三さんは、この風景の『何』を見て、ここに隠そうと決めたんだろう。
──デジタルが沈黙したその先で、僕たちは"アナログな感性"と"記憶"を頼りに進む。
──物語の続きは、本編で。

